娘の下宿部屋にあった6BX7プッシュプルアンプの 部品を一部流用し新しく製作しなおしました。デザインを一新し、より使いやすくしてあります。娘 への結婚祝いとしてプレゼントします。
2012年に製作した6BX7プッシュプルアン プの回路と構成は同じで、複合管(三極五極管)によるアルテック型回路です。6BX7の前段の増幅管を6R-HR4から6AN8に変更してあ りま す。6R-HR4は6U8の同等管ですが、ピン配置がオーディオ用途には向いてなく、五極管部の第1グリッドが2番ピンにあるのに対して、三極管部のプ レートがすぐとなりの1番ピンにあり、信号のとびつきによる発振を起こしやすいという問題がありました。その点、6AN8は三極管部と五極管部のピンが離 れて配置されており、信号の飛びつきが起こりにくいと考えられます。また、回路定数を見直し五極管部分の増幅率を250倍とすることができた ため、2012年の回路に比較して同じゲインでも負帰還を多くとることが可能になりました。また、出力管6BX7のプレート損失は一本あたり合計で9W程度に抑え、 定格の12Wに対して 75%程度としています。2012年に製作した際に長寿命を期して同様の設計にして使用してきましたが、測定の結果出力管の劣化はほとんどありませんでし た。
入力はRCA端子とステレオミニジャックの2系統としました。ステレオミニジャックには、プラグが挿入されると信号を切り替える機能が付いていまし
たので、入力セレクタのスイッチを省略しシンプルな外観とすることができました。
6U8(6R-HR4)のピン接続 |
6AN8のピン接続 |
また、オートシャットオフ回路も2012年に製作したものから数回の製作を経て、改良したものを採用しています。タイマ IC555を使用し、6番ピンに接続した1000μFのコンデンサの電圧が一定値を超えると電源スイッチをOFFにする電流がリレーに流れます。アンプから音が出ている間 はコン パレータ(NJM2903)により放電されますが、信号がなくなると放電されなくなり電圧がゆっくりと上昇するという仕掛けです。この回路定数で約10分間無信号状態が続 くと シャットダウンされます。TL072は、左右チャンネルの混合と信号増幅を行います。NJM2903の7番ピンと5番ピンの間に330kΩの抵抗を接続 してコンパレータにヒステリシス特性を持たせています。これがないとコンパレータがチャタリングを起こし、動作が不安定になる場合がました。 NJM2903は二つのコンパレータが封入されているので、片方を動作確認用のLEDの点灯に使用しています。信号を感知した状態で点灯します。
電源スイッチは、前面パネルに配置されたトグルスイッチと二つの押しボタンスイッチから構成されます。電源のON-OFFは2巻線ラッチ型リレー (OMRON G6BK-1114P-US 5Vタイプ)により制御します。トグルスイッチはONのままにして、電源を入 れる際に白色のボタンを押すとONになります。電源を切る場合には黒色のボタンを押すとOFFになります。また、信号のない状態が10分ほど続くと自動的 に電源がOFFになります。トグルスイッチは何らかの原因でOFFにできなかった場合のための安全装置です。
ケースは以前製作した「スー パーヘテロダイン方式ラジオ第2号」と同様にマホガニー調に塗装した木製のケースに収めることにしました。ケースの外寸は幅175mm 高さ175mm(ゴム脚を除く) 奥行266mmとしました。シャーシは奥澤のO-26(250mm*150mm*60mm)を使用しました。排熱のために、ケース上部に は、角穴をあけ、パンチングメタルをのせています。また、ケースの下面と背面にも通気孔をあけています。
デザイン的な観点から前面中央のボリウムつまみの 位置をなるべく高い位置にするために入力ボリウムは小型のもの(10mm角)を使用し、シャーシ上面に限りなく近く配置してあります。また、入力ボリウム は、初段管の近くに配置するために、パネルまで延長シャフトを用いて軸を伸ばしています。レトロなボリウムつまみは、1970年代に中学生の私が製作した 短波ラジオの残骸からの流用です。ケースの素材は桐の集成材です。こ ちらの業者さんにお願いして指定した寸法にカットし、角を丸く加工してもらいました。板材の接着には木工用接着剤を用いたうえで接合部の補強 に竹串を用いています。竹串は塗装をしてしまえばほとんど目立ちません。また、前面の3mm厚のアルミ板と1mm厚のアルミ製額縁については、こちらの業者さんにお願いして加工してもらいました。自分ではなかなか出せない精度できれいに仕上げてくれ ました。塗装については自分で行いました。
真空管上部に通気口を設置してます。 ケースから出した状態。穴あき基板はオートシャットオフ回路のもの。
帰還抵抗に補正コンデンサを並列接続したところ、高域のピークもなくなり、150kHzで約-3dBとなっており十分な高域特性が得られています。 また、低域側は10Hzで+0.28dBとなっています。負帰還を13.7dBかけているので、十分フラットな周波数特性になっています。
出力対歪率特性も測定しました。Lchのものを掲載します。
ダンピングファクタも13.7dBの負帰還のおかげで左右チャンネルとも20Hz、1kHz、10kHzですべて10という値を得ることができまし た。2012年に製作したものに比べて初段のゲインを多くとることができたため、負帰還を多くとることができたおかげです。
Rchの出力が2Vの時に、Lchの出力にどれだけ信号が漏れてくるのか
を測定しました。Lchの入力はショートしています。その結果、20Hzと1kHzでは測定限界以下、20kHzでは2.6mV(-57.7dB)、
100kHzでは4.8mV(-52.4dB)でした。同様にLchからRchへのクロストークは20Hzと1kHzでは測定限界以下、20kHzでは
0.3mV(-76.5dB)、
100kHzでは4.0mV(-54.0dB)でした。また、残留雑音は入力ショート、ボリウム最大の場合0.3mV(Lch)、0.4mV(Rch)でした。
スイッチに連動させてあるACアウトレットにbluetoothレシーバを接続し、レシーバからのアナログ出力を背面のRCA 入力端子に接続してパソコンから音声を送って聞いてみました。ハムやノイズは 全く気にならないレベルです。小さな部屋で聞くには十分な音量が得られます。ゲインは4Ω出力で23.69dB(15.3倍)となっており、使いやすい音量が得られていま す。自己満足ですが、見た目がなかなか良いです。黒い額縁ごしに 6BX7のヒータがオレンジ色に光るのが見えるのが見えるのが気に入っています。レトロ調のつまみがうまくマッチしています。サイズ も小さく新居にも似合うと思っています。