6BX7プッ
シュプルアンプの製作 (2012.5.3) (2005.5.20修正) 2002年以来、多くのアンプを製作した結果、家の中にはもうアンプを必要とする部屋はなくなり、2台の車の 中にまで真空管アンプを作ってしまいました。そんな折、娘が下宿することになり、これに乗じて手作りの真空管アンプを1台プレゼントすること にしました。 設計方針 オーディオにまったく興味がない娘からの要望は、部屋が狭いので「場所をとらない」ということと、「かわいい デザイン」というものでありました。また、日頃の生活態度からスイッチの消し忘れをする可能性が非常に高いと思われましたので、使用後数分間 音が出なければ自動的にスイッチが切れる回路をを採用し、真空管の寿命が無駄に失われることを避けようと思いました。また、娘が使用する音源 はiPodが主となります。iPodは通常のオーディオ機器よりもi出力電圧が低いため、アンプの利得は通常よりも高く、15倍程度にする必 要があると考ええました。当初は以前製作した6EM7pp アンプの実績から20倍程度と考えたのですが、6EM7ppアンプは8Ω負荷であるのに対し、今回のアンプは4Ω負荷であること に気がつき、おおよそ15倍としました。 回路について アンプ部分 コンパクトに仕上げるという目的ならシングルアンプがよさそうですが、自分の好みからA級プッシュプル回路を 採用したいと思いました。そこで、1本でプッシュプル出力段を構成できる双三極管6BX7を採用し、コンパクト化を図ります。6BX7をプッ シュプル出力管として使用する場合、GEのデータシートによれば2つの三極管両方合わせたプレート損失の上限が12Wとされています。今回 は、真空管を狭い空間に押し込めることもあり、無信号時のプレート損失を合計9.89Wとし、上限の82.4%で使用しています。 また、仕上がり利得を15倍とし、必要な負帰還量を確保するために、初段に5極管を使用し、位相反転回路をP-K分割式で行いこととし、ド ライバ管に三極五極管6R-HR4(6U8相当管)を使用することにしました。 アンプ部回路図 電源部回路図 オートシャットオフ回路 自動的に電源を落とすオートシャットオフ回路については、自己流で考えてみました。アンプの出力信号をオペアンプで増幅し、コンパレータで 信号を検出する部分とタイマIC555を用いたタイマ回路から成る回路です。信号があるうちは、コンデンサの放電が行われていますが、無信号 状態になると次第にコンデンサが充電され、一定の電圧まで上昇するとアンプの電源がOFFになるというものです。今回の回路では、おおよそ2 分でOFFになるように設定しました。 本当はオートシャットオフ回路自体の電源も本体のトランスからとり、全体がOFFにする回路としたかったので すが、うまくいかなかったので、オートシャットオフ回路の電源は別のトランスから供給し、主スイッチをOFFにしないと、オートシャットオフ 回路の電源はOFFにならないようになっています。製作途中での変更でしたので、シャーシ背面にオートシャットオフ回路専用のトランスを入れ たケースを外付けして対応しています。 オペアンプ部分(TL074)が別系統の電源となっている理由は、電源投入時のノイズがいたずらをして電源投入時にソリッドステートリレー がONにならないトラブルを解決するためで、電源投入後少し遅れてオペアンプの電源電圧が上昇するようにしてあります。 オートシャットオフ回路図 主電源が入ると赤いパイロットランプと黄色いパイロットランプが同時に点灯します。無音状態になって2分ほどたつと真空管アンプ部の電源が 切れて、黄色いパイロットランプのみが点灯し続けるようになっています。あえて黄色いパイロットランプを点灯させるのは、手動のメインスイッ チをOFFにすることを忘れないようにするためです。シャーシ下部中央の赤いLEDは信号検出回路と連動しており、信号を検出している間は点 灯し、信号を検出しなくなると消えるようになっています。 |
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コンパクトで「かわいい」デザイン 通常のアンプの配置では、平面上に部品を配置するため、上に物を置くことができないうえに、どうしても 20cm×30cm位の面積が必要になってしまいます。そこで、電源部を下に置き、上部に増幅回路を配置する2階建てシャーシを採用し、さら に真空管を横置きにすることでコンパクトなシャーシとしました。使用したのは、既製品のアルミシャーシ(LEAD S-5 250*180*60)です。60mmというシャーシの高さに電源トランスを収める必要があるため、今回は特注のRコアトランスを採用しました。上のシャーシと下のシャーシの間に5mmのスペーサで隙 間をとることで、ネジの干渉がなくなり、上部のシャーシと下部のシャーシに自由に部品を配置することが可能となっています。また、この隙間を 横から見えなくする目的でシャーシ両脇には木製の当て板を取り付けました。シャーシをこの形式にしたおかげで、メンテナンスを行う場合に重い シャーシをひっくり返すことなく真空管まわりの電圧をチェックすることができます。 木部を白木調にしたことと、正面パネルのつまみに丸味をもたせることで、「かわいい」感じを出したつもりです。正面パネル中央には、 6BX7が2本頭を出しており、これも「かわいい」のではないかと自分では思っております。パイロットランプまわりのデザインは「昭和のクル マ」のレトロな味わいをだしたつもりです。 コンパクトにした分、真空管周囲の排熱には配慮をしました。出力管の上だけでなく下部にも同じ大きさの丸穴をあけ、シャーシ底面から上部ま で空気が通り抜けやすいよう配慮してあります。ドライバ管はシャーシ下部と背面にあけた丸穴で排気対策をしてあります。また、ゴム足は高さ 15mmのものを使用し、底面から空気が流入しやすいよう配慮しました。 シャーシ上部は丸穴部分以外であれば物を置くこともできます。1時間ほど使用しても、シャーシ上面のパネルは熱くはなりますが、やけどをす るほどには熱くはなりません。 |
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シャーシ外観 側面の木部は桐集成材 |
背面 上下のシャーシの間に5mmの隙間があります |
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「昭和の車」のテールライトを思わせる ネオン管パイロットランプ |
丸みのあるツマミ GT管の頭にも少ししています |
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製作上苦労した点 1)Rコアトランスの突入電流対策 Rコアトランスは、突入電流が通常のトランスに比較して多く流れるようです。(特注したメーカーのウェブサイトにも注記がありました。)このため、突入電流を制限する回路を追加しました。100VACからコンデンサと抵抗を用いて電圧を 落とした後整流してDC12Vをとり、ソリッドステートリレーを駆動して電流制限抵抗をショートする回路です。最初はこの点を理解してい なかたので、スイッチ投入時にヒューズが頻繁に飛ぶ理由がわからず、数日間悩みました。 2)6R-HR4(6U8)の発振対策 製作して気がついた問題点のもうひとつは、初段の6R-HR4(6U8相当管)が発振することです。入 力のボリウムをちょうど半分の抵抗値になるあたりに持ってくると200kHzくらいで発振するのが観測されました。このトラブルは他の 方々も経験されているようで、webで「6U8 アンプ 発振」というキーワードで検索するといくつか該当例が見つかりました。原因は、五極管部の第1グリッドが2番ピンにあるのに対して、三極管部のプレートがすぐとな りの1番ピンにあり、信号のとびつきが起こりやすい点にあるようです。しかたがないので、五極管部の第1グリッドである2番ピンの直近に 100pFのコンデンサを接続しアースにつないだところ、発振しなくなりました。 |
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シャーシ上部中身 |
シャーシ下部中身 |
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測定結果 残留雑音は入力ショートでボリウム最大の場合で約1mVとなりました。ヒータ配線と入力のシールド線が 近接してしまい、60Hzのノイズが大きくなってしまいました。ボリウムと入力セレクタをシャーシ後部に配置し、軸を延長するレイアウト にすればよかったと反省しています。しかしながら、使用するスピーカーが小型であるせいか、60Hzのハムはスピーカからはほとんど聞こ えません。NFBをかけた後の仕上がり利得は14.5倍となりました。クロストークは20Hz,1kHz,20kHzでともに-60dBを確保できました。 周波数特性は、プッシュプルアンプの良さで、低域は10Hzまでほとんどフラットです。 高域は、100kHzで-1.79dBとまずまずの広帯域を実現できました。出力トランスが優秀なおかげで高域に周波数特性の大きなうね りがないのがわかります。 出力対歪率の測定は、新規に購入したUSBオーディオを使用し、WaveGeneと WaveSpectraを使用して測定してみました。1kHzで出力3.6Wに対し、歪率5.97%となりました。ダンピングファクタは 6.25(1kHz)となりました。10kHzの矩形波の出力波形をチェックしましたが、大きなピークが生じることなく仕上がっていま す。 |
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2012.5.13修正 |
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10kHz矩形波出力波形 Y軸=2V/div |
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早くも改造(2012.5.20) 娘の部屋に持っていく前に数週間ほど試運転をしていて、狭い空間でがんばっている6BX7をみ ているうちに真空管の寿命を考慮してプレート損失をもう少し抑えたいと思うようになりました。そこで、B電圧を5Vほど下げ、6BX7の プレート損失を2ユニット合計で9.15Wとし、最大定格である12Wの76%程度としました。B電圧を下げるために、チョークコイルに 抵抗を継ぎ足しています。最初からトランスの2次側電圧を低く180Vにしておけばよかったと思います。 改造後のアンプ部回路図はこちら 回路修正後の出力対歪率特性は以下のようになりました。ほんのわずか出力が低下していますが、実用上は全く問題ありません。 |
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