6BX7プッシュプル デスクトップ用プリメインアンプの製作   2025.10.10

 自宅の私の机の上に置いて音楽を聴くためプリメインアンプを製作しました。以前は6EM7 プッシュプルアンプを使用していましたが、奥行きが大きく机の上 の面積が広くとれないという欠点がありました。そこで3階建て構造にして、突起部を除く本体の奥行きが100mm程度に収まるアンプにしました。私の聴力低下に対応し左右 ch 独立のトーンコントロール回路もつけています。
 

回路について


 最近購入した小型のスピーカーを使用するため、ダンピングファクタは10以上必要と考えました。また、小さな部屋の机の上で使用するので出力は 3Wもあれば十分と考えました。また、入力にはbluetooth レシーバを用いるため、プリアンプ部の入力インピーダンスは低くしても構わないと考えました。

 bluetooth レシーバにパソコンからWaveGeneから0dBの信号を送って出力電圧を測定したところ、1000mV(RMS)が得られました。使用するスピーカーのインピーダンス は8Ωですので、3Wの出力を得るためには4.9Vの出力電圧が必要です。したがってアンプのゲインは4.9倍あればよいことになりますが、実用上の余裕 を考えて15倍程度のゲインがあればよしとしました。

 パワーアンプ部分は6BX7のプッシュプルを12AX7の差動回路でドライブするものです。十分なダンピングファクタを得るためにNFBを14dB ほどかけています。パワーアンプ単体のゲインは1.75倍となりました。出力トランスはゼネラルトランス販売のPMF-8P-10kを使用しました。 シャーシに組み込む際に幅が少し大きかったのでフランジを切って対応しました。少し高価ですが縦型のPMF-8P-10k-TBを使用すればこのような手 間はかかりません。

 プリアンプ部分は最近製作した5670を使用したカー オーディオ用のプリアンプの回路と類似しています。ただ、Baxandall型トーンコントロール回路の部分は異なっています。前回同様に、 エクセルを用いてシミュレーションを行った上で回路定数を決定しました。シミュレーションに用いた計算についてはこちらをご参照ください。また、ターン オーバー周波数を3段階に切り替えることができるようにしてあります。バランスコントロール用にMN型ボリウムを使用しています。センタークリックのある MN型ボリウムはなかなか見つからず、購入できたボリウムが250kΩと抵抗値が大きかったため、10kΩの入力調整用ボリウムとの整合性を図るため、中 央の端子と外側の端子との間に51kΩの抵抗を並列に接続しインピーダンスを下げています。プリアンプ部単体のゲインは8.9倍程度になりました。


 電源回路には、以前から時々使用してきたPHOENIXというメーカーのRコアトランスを特注して使用しています。ケースに収まる幅の制約から トランスの容量が最大80VAに制約されました。使用できるDC電流とトランスに流れる交流電流の関係を間違えると、トランスの容量を超過してしまいま す。東栄変圧器のウェブサイトにあるQ&Aのページに、「ブリッジ整流では定格(AC)の約6割程度の直流出力」「センタータップを利用した両波整流 ではトランスの定格(AC)の8~9割程度(の直流出力)」という記述があったので、これに沿って直流電流を決めました。B電源はブリッジ整流回路を採用 しました。また、プリアンプとドライブ段のヒータ回路はセンタータップ方式の整流回路を採用してヒータを直流点火しています。ヒータとバイアス回路の整流には順方向電圧の 低いショットキーバリアダイオードを使用しています。


回路図(PDF版)はこち ら



ケースの製作

 ケースは既製品を使用せず、アルミ板とアルミアングルで製作しました。化粧パネルになる部分は2mm厚のアルミ板を通信販売で指定寸法に切り出して もらい、内側に使用するアルミ板はホームセンターで売っている規格寸法の板を自分で切断しました。アングルはホームセンターで購入した10mm×10mm 厚さ1mmのものをカットして使用しています。左右の端部にはアルミパンチングメタルを取付けて空気が通るよう工夫しています。三階建て構造とし、一番下 に電源部、真ん中にプリアンプ部、一番上にパワーアンプ部を配置しました。プリアンプ部は6面すべてを1mm厚のアルミパ ネルで囲いシールドしています。少々構造が複雑になりすぎ、配線作業よりもケースの製作に多くの時間を費やし苦労することになりまし た。電源部とアンプをつなぐ配線はELコネクタを用いで接続し、メンテナンスを容易にしています。製作途中の電圧チェックも 容易にできました。出力管のバイアス調整は頂部の化粧パネルを外してシャーシ上部に設けた穴から半固定ボリウムを調整するようにしています。また、出力管 のプレート電流は背面に設けたチップ端子を用いて測定できます。ケース全体の大きさは取っ手やツマミなどの突起物を除き、幅360mm 高さ204mm 奥行104mm に収まりました。


内部構成図

正面パネルを外したところ

端部にはパンチングメタルの換気口

背面 配線はELコネクタで接続

測定   

周波数特性

 プリメインアンプ全体での周波数特性を測定しました。トータルのゲインは15.4倍(23.7dB/1kHz)となりました。トーンコントロールを フラットにした場合でも周波数特性のうねりが少しあります。20-40kHzの範囲で、1kHzを基準として20Hzで+0.39dB、16kHzで -0.29dB(Lch)ありましたが、この程度であれば許容できると判断しました。また、パワーアンプ部単体での周波数特性も測定しましたが、高域に大きなピークがなく 素直な特性になっています。 




トーンコントロール特性

 シミュレーションとの比較を行ってみました。高域側が少しゲインが少なくなっていますが、おおよその形は似ています。ターンオーバー周波数が bass trebleともに「middle」の場合を示します。



実測値

シミュレーション結果


出力対歪率特性

 出力対歪率特性も測定しました。Lch Rchを測定しましたが、右チャンネルのひずみが大変低くできました。しかしながら実測した残留雑音と信号の割合から考えてRchの0.1Wより下の数値は少なすぎると思 われます。THD+Nが1%程度で目標としていた3Wの出力が得られました。残留雑音は0.25mV(Lch) 0.2mV(Rch)でした。


Lch

Rch


ダンピングファクタ

 ダンピングファクタは、無負荷の状態と8Ω負荷を接続した状態の電圧を比較することで計算しました。目標とした10以上を得ることができています。

Lch


  20Hz 1kHz 10kHz
8Ω 出力(mV) 500 500 500
無 負荷出力(mV) 540 540 540
D.F. 12.5 12.5 12.5
Rch


  20Hz 1kHz 10kHz
8Ω 出力(mV) 500 500 500
無 負荷出力(mV) 548 542 542
D.F. 10.4 11.9 11.9


使用してみて

 bluetoothレシーバを入力に接続し、PCからの信号を受けて使用しています。机で聞いている限りゲインや出力の不足を感じる ことはありません。奥行きが260mmもあった前のアンプから奥行き104mmの本機に代えたことで机の上が広く使えるようになりました。苦労の仕甲斐が あったというものです。



  

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