加齢に伴い、高音域の聴力が低下してまいりました。現在使用しているカーオーディオのプリアンプは低音側のトーンコントロールしかついていない ため、低音 に加えて高音の トーンコントロールもついたプリアンプを製作することにしました。上の写真は完成写真です。1DINサイズに収まっています。(電源部は別)右の大きなツマミが音量調整、 小さなツマミはトーンコントロール用です。また、入力は正面のステレオミニジャックと、背面から出ているRCA入力があり、ステレオミニプラグ挿入の有無 で切 り替えて使用しています。
車内に組み入れた状態。電源部以外は3DINサイズ収めています。下は既存の6EM7pp パワーアンプ
車載用という制約から耐震性が必要ですので、これ までの実績を考えて真空管は双三極管5670Wを使用することにしました。また、1DINサイズに収める必要があり各チャンネル1本に真空管の本数は限られます。したがっ て 5670 を用いた二段増幅回路にトーンコントロールを組み込む必要があります。そこで、先日来シミュレーションを重ねてきたBaxandall型トーンコントロー ル回路を採用します。この回路は真空管1ユニットで成立しますが1倍弱のゲインとなってしまうため、もう片方のユニットで10倍程度ゲインをかせぐ必要が あります。
5670のEp-Ip特性図から動作点を検討しました。このプリアンプの場合トーンコントロールの操作によって負荷が大きく変動するた め、ロードラインをその都度引くのではなく、動作点での gm , μ , rp を算出し、計算によって回路のゲインを算出することにしました。電源電圧は既存のパワーアンプ側からとってくるので、250V程度で変更できません。したがってプレート抵抗とグ リッドバイアス電圧で動作が決まってきます。今回はプレート抵抗を33kΩとしてみました。5670はある程度電流を流した方が性能が良いの で、プレート抵抗があまり過熱しない範囲で電流を多くとり、Ip=3.9mA Eg=-2V で動作点を決めました。
Ep-Ip特性図で、この動作点から水平に線を引いてEg=1VとEg=3VのEp-Ip特性曲線との交点の距離から 電圧を 換算します。つまり、動作点のプレート電流を一定に保ってグリッド電圧を1Vから3Vに変化させた場合のプレート電圧の変化を見ているわけです。これを 2(V)で割れば、Eg=2Vの点(動作点)でのおおよそのμが得られます。同様に、動作点から垂直に線を引き、Eg=1VとEg=3Vの Ep-Ip特性曲線との交点の距離から電流(mA)を換算します。先ほどとは逆に動作点のプレート電圧を一定に保ってグ リッド電圧を1Vか ら3Vに変化させた場合のプレート電流(mA)の変化を見ているわけです。これを2(V)で割ることで動作点でのおおよ そのgm(mS)を算 出できます。μとgmがわかれば、μをgmで割ることによりrpも計算できます。
このようにして、gm=3.85mS μ=30.4 rp=7.9kΩ が算出できました。
初段は、上の回路図の通りP-G帰還をかけています。プレート抵抗、次段の入力インピーダンス、さらに負帰還回路の負荷ZLの合成インピーダンスが
負荷となります。これらのうち、次段の入力インピーダンスはトーンコントロールのボリウムの位置によって大きく変化します。μ,gm,rp
がわかっているので、負荷の合成インピーダンスを計算すればゲインを計算することができます。別途行ったシミュレーションで次段の入力インピーダンスを算出し、一番負荷が重くなる場
合と、一番軽くなる場合、トーンコントロールがフラットの場合の3通りの計算を行い、目標とする10倍のゲインが得られることを確認しました。
こまかい話ですが、上の表の中の帰還抵抗(ZL)について説明します。P-G帰還のためにプレートからグリッドに330kΩの抵抗 が付いているので、ZLは330kΩであるように思われますが、アンプのオープンゲインAが十分大きくない場合には、差が出てきます。詳しい説明はこちら をご参照ください。結果の式だけ下記に掲載します。式の中のZ2は帰還抵抗(330kΩ)の表しAは増幅回路のオープンゲイ ンを示します。
上の表計算では回路のオープンゲインAを求める計算にZLが必要である一方、ZLを求め
る計算にはAが必要であ るため、数値を決められない事態に陥ります。実際の計算ではZLの値を330kΩとしてExcel
で計算し、Aの値が得られたら式①を用いて再度ZLを 計算し、その値をExcelの表のZLに反映して計算
し再度Aの値を算出する。ということを繰り返すことにより数値が収束してきます。この場合は3回でZLの1の位の変化がなく
なりました。もっとよい計算方法があるのかもしれません。
二段目の回路図です。この回路のオープンゲインも計算してみました。この場合もトーンコントロール回路による負荷の変動が大きく、最低限のオープン
ゲインが確保できることをシミュレーションを利用して確認し
てみました。
Baxandall型トーンコントロールの様々なバリエーションから、低音部にコンデンサを二つ、高音部に一つ使用する形式を採用しました。低音部
についてはコンデンサを二つ使用するタイプの特長である、ボリウムをセンターから左右に回す角度に対応して低音部が上昇(降下)しはじめる周波数が低い周
波数から高い周波数に移動していくという点が好ましい
と判断しました。また高音部については、コンデンサを一つ使用するタイプの特長である周波数特性のうねりが少ないという点が好ましいと判断して採用しています。回路を検討
する 過程でExcelを用いて行ってきたシミュレーションについては、こ
ちらをご参照ください。
シミュレーションの結果、トーンコントロール回路を含めた二段目の増幅回路の周波数特性(トーンコントロールの効き具合)、入力インピーダンスの変 化、二段目の真空管から見たトーンコントロール回路の負荷インピーダンス(ZL)(上記の①式で得られるZLとは別です)の 変化を 確認し、問題のない範囲に収まることを確認しました。最終的に下記の回路になりました。